家族機能研究所紀要 第3号

収録内容
斎藤学
 多重人格と"false memory syndrome"
 現代日本の家族−その特徴と精神的問題
 家族は何のためにあるか
 叱られない親と叱り過ぎる親−いま求められる「父」の役割、「母」の役割
 家庭内暴力と夫婦間の病理
 被虐待児としての神戸の少年Aと彼の連続殺人について
 家族の中のエロス−売春および神経性無食欲症と近親姦

三橋順子
 親の子どもへの性暴力

永井俊哉
 共依存

中村俊規
 人格障害の画像診断

研究会記録
 臨床社会学研究会<フェミニズムと臨床>
  波田あい子・上野千鶴子・斎藤学
 「法と精神医学」研究会<子どもの虐待と法−立入調査権について>
  磯谷文明
序 斎藤 学 家族機能研究所代表
 当研究所研究員の1998年の業績をここに収録する。これを書いている現在では、遙か遠くに書き残したもののように思えるのは、それだけ日々の出来事に追われているからであろう。日々の出来事とは、もちろん臨床のことである。ひとつの事業を立ち上げることの苦労を知らなかったわけではないが、実際に60人の常勤者を抱える組織(医療法人學風会さいとうくりにっく)を運営してみると、そのめまぐるしさは耐え難いほどである。一番避けたかったことを、還暦まで数年という現在になってしているじぶんがおかしくもあり、不思議でもあるのだが、人とはこうしたものなのだろう。若いときに楽をし過ぎれば、こうした罰も受けるのである。
 そもそもは、好きなように患者を診て、ものも考えられる場所を作ろうとしただけのことなのである。それ自体は、老境に入りかけた人なら誰でも考えることだろうが、患者を診るには医療という法規に縛られたものに身を浸さなければならないと考えてしまったことについては、内心後悔していないでもない。幸い優れた同僚たちに恵まれて、クリニックの運営そのものは順調だが、肝心の「ものを考える場所」どころではなくなっている現状はどうにかしなければならない。当初、私がイメージしていた家族機能研究所は、その傘下に小規模な保険のきくクリニックも併せ持った、研究・広報・カウンセリング機関のはずだったのだが、出来上がった家族機能研究所の公的な立場は、逆に医療法人學風会のもとにある非営利組織である。我が医療法人の定款には、そう書いてある。私のところのような小規模なクリニックが、研究所を持つのは例外なのだそうだが、東京都は、このような形での研究所の存在を明確にする定款の変更を、1999年6月になってようやく認めてくれた。因にカウンセリング機関の方は、クリニックが出来た時点で、株式会社IFFへと分離されてしまった。
 そのように苦労してみて一体何になるのかと、これを読む人は思うだろうが、私には必要なことと思えるので苦労を買っているのである。それでは、その研究所はどのような業績を挙げたかと問われれば、残念ながら大したことは出来ていない。今までのところ臨床研究以外の分野に乗り出せないでいる。それでも、今に見ていろと思い、こうして毎年、試験答案のように紀要を出し続けるので、私は元気でいられるのである。
 研究所にとっての1998年は、調査統計の分析者を雇用し、新人の医師研究員たちも加わって「さて、これから」という年だった。新人の論文用にと多くの資料を用意し、「さあ、お書きください」と考察の相談にも乗るつもりでいるうちに新人たちは去った。私の知らないところで人間関係の軋轢があったらしい。それ以前に、私自身の解離性健忘についての研究のために資料を整えてくれていた研究助手がうつ病になって郷里へ帰ってしまった。これらは99年の初頭から前半にかけて、慌ただしく生じたことであった。組織に人が居ついてくれるようになるのは大変なことだと、しみじみ実感しているところである。そういうわけで、私は今、篤実ではあっても抑うつで辞めることのない調査統計の専門家たちを募集している。
 泣きごとを書いているうちに、1998年にも、我が研究所の主催で多くの研究会が開かれ、豊富な言説が飛びかっていたことを忘れてしまった。それらのうち2本だけが、ここに収録されている。準備の遅れのために残されることになった貴重なものを捨てるつもりはない。次年度の紀要までお待ちいただきたい。

1999年8月22日


Institute for Family Functioning