家族機能研究所紀要 第4号

収録内容
斎藤  学
 依存症に陥る心理的背景と治療
 家族の機能とこころの問題
 少子化の中での家族の変化、その役割
 母の記憶と凍った記憶
 家族関係のダイナミクス−親を攻撃する子ども
 薬物依存と精神療法
 摂食障害と物質乱用
 いじめ披害への対応法−トリイ・ヘイデンからの提言
永野  潔
 大麻依存
 薬物乱用・依存治療と治療共同体・自助グループ
中村 俊規
 老年期精神障害−気分障害
 解離性障害の生物学的成因と治療
 利き手(利き目・利き足)・半球機能−神経心理学と人間学的観点から 前頭菓検査KN-VSTからみた定量脳波と事象関連電位(第2報)
 診療の秘訣−ウソとその臨床
四戸 智昭
 国際高齢者年各国の動き−インターネット時代の国際年
 嗜癖という病
資料
 いじめ被害の後遺症等に関する基礎調査
研究会記鋒
 第3回 臨床社会学研究会
 <ナラティヴ・セラピーの世界−その実践、隣接領域、姿勢>
 小森康永・森岡正芳・野村直樹
 第4回 臨床社会学研究会
  <エスノメソドロジーから見たナラティヴ・セラピー>
  山田富秋・野口裕二
 第5回 臨床社会学研究会
  <精神医学へのナラティヴ・アプローチ>
  江口重幸・野村直樹
序 斎藤 学 家族機能研究所代表
 毎年、この紀要のゲラを見るたびに遠い過去の自分に接する気分になる。1999年中に研究誌などの活字媒体に載ったものを集めてあるわけで、決して大昔の論考ではないのだが、実際に書いたのはその前年ということが多いせいかも知れない。そう言えば、こんなものも書いたなあ、とか、今書けばこういうふうにならないな、と思ったりする。今号では1998年中に行われた「臨床社会学研究会」の模様を紙上報告することにしたので、余計そんな感じがするのかも知れない。
 「臨昧社会学研究会」は、1996年に開いた「セクシュアリティ研究会」の後を承けて1998年からスタートした。「法と精神医学研究会」と並ぶ家族機能研究所の二本柱のひとつである。セクシエアリティ研究会では西川直子氏(東京都立大学)によるフーコー角牢読(『知の権力』をテクストとした)や野村直樹氏(名古屋市立大学)による「ナラティヴ・セラピー:社会構成主義の実践(野口裕二氏との共訳による同名訳書がある)」の解説などが行われていた。これは私の研究室に10名足らずの人々が集まるという小規模なものだったが、もう少しオープンなものにしようということで付設の教育センター(東京都港区東肺布)を会場として行われるようになったのが臣忘昧社会学研究会である。そのうちの一つ、『フェミニズムと臨床』(波田あい子、上野千鶴子、斎藤学)だけは紀要第3号に収載済みなので、今号では「ナラティヴ・セラピー」をタイトルとした3つの講演とその際の議論を収載した。江口重幸氏(東京武蔵野病院)の講演の際の私の議論は、その後これを拡大して『封印された叫び』(講談社、1999年)として上梓した。
 この研究会は99年から今年にかけても続行されているが、テーマを拡大したので、「臨床社会学研究会」という名称は用いていないかも知れない(主宰者としては曖昧な言い方で申し訳ないが)。佐野真一氏(ルポライター)による「東電OL殺人事件」の取材経過、小田晋氏(精神料医)による神戸の少年Aによる連続殺傷事件の解釈、藤本由香里氏(筑摩書房)による少女漫画論、野村総一郎氏(防衛医大)によるうつ病の動物モデルなど、多彩な論者からの刺激的な講演を頂いた。これらも次号以下に順次掲載の予定である。
 当研究所に付設されたクリニックのカルテ番号は、95年9月の開設以来、6000番台に達するようになっているが、最近になって、ようやく患者の受け入れに余裕を感じるようになった。と言うより、診療を絞らざるを得なくなった。1999年の夏から年末にかけては、診療陣の手不足が生じて新患を毎日10名ずつ診察していた。これでは受診を希望する人々にも迷惑をかけるし、私も壊れてしまう(既に壊れてしまったのかも知れない)。今春からは原則として新患を診ることを止めている。この間、私の精神活動は日々の臨床に限局され、その余のことを考えるのも億劫になった。そんな状況を無視して前述の『封印された叫び』を書いたりしたから、今年の前半には生涯はじめての抑うつ状態(ではないかと思う)に陥り、物を書くのが本当に厭になった。興味深い体験であった。やや元気が出てきたのは6月からで、放り投げていたジュディス・ハーマンの訳書(『父・娘近親姦』)に無理やり立ち向かっているうちに回復した(と思う)。
 研究所の活動は四戸智昭氏という新任者を得て甦った。現在、TECL(外傷体験チェックリスト)という家族内トラウマに重点を置いたスクリーニング票の作成を急いでいて、これとDSM−WによるPTSD診断基準との相関を検討したり、昨年から使用可能になったSSRI(Fluvoxamine)の摂食障害への効果を判定しているところである。
 成人に達した児童虐待被害者(アダルト・サヴァイヴァー)を対象とした神経生理学的研究は中村俊規氏(猪協医大)を中心に順調に展開している。MRIとSPECTを用いた図像学的測定が完了したのは、未だ6例程度であるが、認知、記憶、記銘に関する各種テストが揃ったものは25例前後となった。
 四戸氏、中村氏を中心にした研究の結果は、この9月以降、順次報告が行われることになると期待している。これらが論文の形になるのは来年であろうから、この紀要への収載は2002年版でということになる。それまで何とか元気を続けたいものである。

2000年8月20日


Institute for Family Functioning