家族機能研究所紀要 第7号

収録内容
斎藤  学
 配偶者暴力加害者(男性)のための治療プログラムの試み
 講演:嗜癖とジェンダー
 講演:過食症の治り方
 摂食障害の家族と家族療法
 少子化が進む本当の理由
 正常と異常のボーダーライン;頻発する少年犯罪について
 近親姦虐待と成人期精神障害

太田 真弓
 虐待する母とその子の治療
中村俊規
 今考える、PTSD/DIDの脳機能、性虐待、そしてトラウマティック・メモリ
 救急医療におけるセルフ・ケアとストレス・マネージメント
 脳外傷後遺症:関与しながら観察した5年間の成果と報告
三好 和子
 日本語版DES-UによるPTSD患者と正常成人との解離性体験についての比較検討
四戸 智昭
 Depression and suicide of the eldery in Japan
 わが国における高齢者のうつ病と自殺の現状
 摂食障害の心理特性分析と新規摂食障害スケールの試み

序 斎藤 学 家族機能研究所代表
 今回の紀要には近親姦虐待の成人期精神保健への影響に関して当研究所が観察してきたことの報告が収載されている
(斎藤学「近親姦虐待と成人期精神障害」、中村俊規「今考える、PTSD/DIDの脳機能、性虐待、そしてトラウマティック・メモリ」)。太田真弓によるさいとうクリニック・児童診療部からの報告と三好和子、四戸智明による着実な研究と併せて御一読のうえ、ご批判いただければ幸いである。
 今年(2004年)に入って俄に解離性障害、児童期性的虐待の青年期後遺症に関する批判的言説が散見されるようになった。中でも 『危ない精神分析-マインドハッカーたちの詐術』(八幡洋 著、亜紀書房)なる本は、記憶捏造説の大御所、エリザベス・ロフタスの言説をそっくりそのまま援用してジュディス・ハーマンの人格攻撃を執拗に繰り返している。これは10年前にアメリカで一過性に吹き荒れた「魔女裁判」の無批判な「輸入」(オリジナリティを全く欠いている)に過ぎないから、いわゆる
「捏造記憶論争」に関心を抱いていた人々には「なぜ、今頃」という疑念を抱かせる代物である。しかしこれが大新聞の書評に取り上げられたり、雑誌『論座』での論戦になったり、月刊誌『諸君』での「信田さよ子(アダルトチルドレンの熱心な紹介者)バッシング」にまで盛り上がったのは奇観というしかない。
 議論の内容からして私も論戦に参入しようかと考えないでもなかったが止めた。この議論は誹謗と中傷のための不毛なものと観た。それに、この件については既に1999年に刊行済みの『封印された叫び』(講談社)の中で、より完全な形で論じ尽くしたと考えている。この本では、ロフタスの記憶植え込み可能説についてもきちんと紹介し、その上でこの説には重大な欠陥があることを指摘しておいた。
 それにしても奇妙なことである。アメリカにおける「捏造記憶論争」は、それに先立ってジャーナリズムによるセンセーショナルな性的虐待事例報告の連鎖(およびその法廷論争)があった。日本では児童期性的虐待についても強姦被害者の精神的後遺症についても世間の大騒ぎになったためしがないのに、捏造記憶論争だけが唐突に「輸入」された。日本の言論界の人々(の一部)は何を怖れているのだろう。女児の隠蔽されがちな虐待の一型がようやく明るみに出されそうになっているというだけのことなのだが

2004年5月20日


Institute for Family Functioning